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高知地方裁判所 昭和33年(行)14号 判決

原告 英弘電気有限会社

被告 高知税務署長

訴訟代理人 大坪憲三 外二名

主文

被告高知税務署長が昭和三十三年四月二十六日になした昭和三十一年八月一日より昭和三十二年七月九日迄の間の原告の法人所得金額を金二百十万五百円とする更正決定中金四十四万八千百五十円を超過する部分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告代表者は、主文と同旨の判決を求め、請求原因として、原告は肩書地において電気器具類の販売業を営んでいたが昭和三十二年七月九日社員総会の決議に因り解散した。そこで原告は昭和三十二年九月九日被告高知税務署長に対し昭和三十一年八月一日より昭和三十二年七月九日迄の間の法人所得金額を金三十四万二千四百七円とする確定申告書を提出したが、昭和三十三年四月三十日同月二十六日附で被告高知税務署長がその所得金額を金二百十万五百円とする更正決定をした旨の通知を受けた。そこで同年五月十九日被告高知税務署長に対し再調査請求書を提出したが、同月三十一日同月二十九日附で被告高知税務署長が右再調査請求を棄却した旨の通知を受けたので、同年六月六日高松国税局長に対し審査の請求をしたが、同年九月十一日同月九日附で高松国税局長が右審査請求を棄却した旨の通知を受けた。然しながら被告高知税務署長のなした前記更正決定中金四十四万八千百五十円を超過する部分は違法であるからその取消を求めるため本訴に及ぶと述べ、抗弁に対し、昭和三十一年八月一日から昭和三十二年七月九日迄の間の原告の営業に因つて生じた総益金が金千七十八万八千九百六十四円三十六銭であること、その間の支払利息、寄付金、雑損失、経費、固定資産処分損、貸倒金、売却損、売上原価の合計が八百六十八万八千四百十四円三十六銭であることは認めるが、その総損金は、これに前記解散の日である昭和三十二年七月九日退職した原告会社の役員、従業員に対し右同日社員総会において支給を決議した退職金百六十五万二千四百円(現実にこれを支払つたのは同年八月十一日と同月二十八日の二回であるが、右解散の日には既にその支払義務は確定していたのであるから、これは右解散の日を終期とする年度の損金に算入せらるべきである。)を加えた金千三十四万八百十四円三十六銭であるから、右期間中の原告の法人所得金額は右総益金から総損金を差引いた金四十四万八千百五十円であると主張し、

被告及び法務大臣指定代理人等は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として、原告が肩書地において電気器具類の販売業を営んでいたが昭和三十二年七月九日社員総会の決議に因り解散したこと、原告が被告高知税務署長に対し原告主張の確定申告書を提出して後高松国税局長から原告に対し原告主張の審査請求棄却の通知があつた迄の間の事実が原告主張のとおりであることは認めると述べ、抗弁として、原告主張の期間中の原告の総益金は金千七十八万八千九百六十四円三十六銭であり、その総損金は支払利息、寄付金、雑損失、経費、固定資産処分損、貸倒金、売却損、売上原価の合計金八百六十八万八千四百十四円三十六銭であるから、その法人所得金額は金二百十万五百円である。従つて被告高知税務署長のなした原告主張の更正決定には何等の違法はない。なお原告がその主張の解散の日に右同日退職した役員、従業員に対し社員総会において金百六十五万二千四百円の退職金の支給を決議しその主張の如くこれを支払つたことは認める。しかし解散を前提とした取引行為により生じた費用及び収益は発生時期が何時であるかを問わず性質上すべて清算中の損益とすべきものである。原告主張の退職金の支給を清算中の損金とせずその帰属を納税者の恣意にまかせるとすれば各事業年度の所得と清算所得を明確に区分し課税している現行税法は不当に回避されることゝなる。又元来事業年度の損金は当該年度の益金に対応するものでなければならないのであつて本件の場合の退職金は当該解散決議の日の属する事業年度の収益に対応する損金とみることはできない。以上のように解散の場合の退職金はその性質並びに経理の本質上解散の日を終期とする事業年度の損金に算入すべきでなく清算中の事業年度の損金に算入すべきものである、と主張した。

理由

原告が肩書地において電気器具類の販売業を営んでいたが、昭和三十二年七月九日社員総会の決議に因り解散したこと、原告が被告高知税務署長に対し原告主張の確定申告書を提出して後高松国税局長から原告に対し原告主張の審査請求棄却の通知があつた迄の間の事実が原告主張のとおりであること、昭和三十一年八月一日より昭和三十二年七月九日迄の間の原告の営業に因つて生じた総益金が金千七十八万八千九百六十四円三十六銭であること、同期間中の支払利息、寄付金、雑損失、経費、固定資産処分損、貸倒金、売却損、売上原価の合計が金八百六十八万八千四百十四円三十六銭であること、原告が右解散の日に同日退職した原告会社の役員、従業員に対し社員総会において金百六十五万二千四百円の退職金の支給を決議し同年八月十一日と同月二十八日の二回にこれが支払われたことは当事者間に争がない。

そこで右退職金が右解散の日を終期とする事業年度の損金に算入せらるべきであるか否かについて考えてみるに、法人税は法人の組織的継続的営業に基く所得に課税するものであるからその損益の計算は原則として収支すべき権利確定の時期を以て損益発生の時期とするいわゆる発生主義によるべきであり、一般に退職金のごときも亦その支給義務の確定した日の属する事業年度の損金に算入するのが相当である。

被告は法人の解散の場合の退職金は発生主義による所属事業年度の如何を問はず解散を前提としたものであるから清算中の損金に算入すべきであると主張する。そして法人税法第七条第四項が法人解散の場合解散の日の終了を以て課税上その事業年度を区分した趣旨も、解散後は法人活動の内容が異り経理上その収支を別個に観察するのが至当であるとしかつ税法上も合目的であるとの考慮に出たものと考えられる。しかし解散後の行為は法律上残余財産の確定を目的とするものに限られるが解散前においても解散を前提とした行為をなすことは法の禁ずるところではなく、従つて解散前の行為が後に行われた解散を前提とした行為なりや否やはその行為の性質はもとより行為の時期により一層その区別は不明確とならざるを得ない。従つて一般に当該行為が単に解散を前提とした行為なりや否やによりこれによつて生じた損益の所属事業年度を決定することは妥当とは考えられない。法第七条第四項が解散の日を以て事業年度を区別したのも解散を前提とした行為である限り解散前に損益が確定し或はさらに現実に収支の行われたものまでこれを解散後の事業年度に帰属せしめようとの趣旨ではなく、たゞ解散後に発生した損益を前述の趣旨からその前の事業年度と別個に取扱おうとするにあるものと解される。又被告は退職金は解散前の事業年度の益金に対応する損金とは認められないというけれども、退職金は清算中の益金に対応する損金というよりむしろ解散前の各事業年度の益金に対応する損金と認められるべきものである。

以上の次第であるから結局本件退職金支給も、前記当事者間に争のない事実によると原告主張の解散の日には既に原告主張の退職金支給義務は確定していたとみるのが相当であるから、いわゆる発生主義の原則に則り右解散の日を終期とする事業年度の総損金に算入すべきである。

以上のとおりであるので原告主張の期間中の総損金は当事者間に争のない金八百六十八万八千四百十四円三十六銭に右退職金の合計額金百六十五万二千四百円を加えた金千三十四万八百十四円三十六銭であり、従つてその所得は当事者間に争のない総益金千七十八万八千九百六十四円三十六銭から右総損金額を減じた金四十四万八千百五十円である。右のとおりであるので被告高知税務署長が昭和三十三年四月二十六日になした右の所得を金二百十万五百円とする更正決定中右所得金額を超過する部分は違法としてこれを取消すべきであり、これと同旨の判決を求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容すべきである。よつて訴訟費用の負担につき行政事件訴訟特例法第一条、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 合田得太郎 隈田誠一 阿蘇成人)

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